東洋医学と東洋思想

 東洋医学の成り立ち
 東洋医学は、先人の優れた直感と経験により、病気の変化や人体の変化を経過観察し、経験的データの蓄積を基礎として成り立っております。

 人間のすぐれた五感を用いて、人間に起こる様々な自然現象を観察し、そこから得た知識と知恵を集積した医学とも云えます。

 心身一如の人間を捉え、身体全体を診て判断し、経験的知恵を働かせ、自然治癒力を高めて、病気を治癒あるいは予防するものが東洋医学です。

「病気は医師が治すものでなく、自分の治癒力で回復していくもの」です。

 その手段として漢方薬・鍼・灸・指圧・マッサージ・気などを用いて、からだ本来の持つ治癒力を、存分に発揮できる身体に整えることを目指しています。


東洋的修行の概念

 東洋医学では医師の主観を用いて、症状を分析していくことが最も重要になってきます。主観は客観性や普遍性が無く、科学からは軽視されがちですが、優れた感覚を用いて直接患者さんに触れ、脈診(脈の流れ・鼓動の強弱やテンポなどを診る)や触診(つぼの状態・虚実・肌・体温など)・望診(視覚によって診る)・問診などを行います。

 

 そこで診る側の人間には東洋的な修行という段階、つまり身体を通して感覚を磨く過程が不可欠になってきます。それは絶対的世界であり、自分の内側を整えて、自己や技術を高めていくことです。芸能や職人の世界・武道などに相通ずるものがあると、私は感じております。

 

 禅宗の僧が瞑想的に、ひたすら無心無我の境地を求めるように、己の世界を探求しながら技を磨き、主観を研ぎ澄まして確立していくことが、東洋医学を志す者の姿勢であると考えます。

 己の感覚を研ぎ澄まし、自己が成長して行く過程こそ、患者さんを救う道を拓くことだと精進しております。

 

 なお近代科学である西洋医学では、身体を通した「修行」という概念はなく、理性が中心となる「研究」が行われます。

 

東洋思想の影響

 東洋医学の背景には東洋思想である道教・儒教・老荘思想・仏教・禅・神道などの宗教的思想も大きく影響していると考えられます。自然の森羅万象に神を感じ、自然の中のひとつである人間の中にも宇宙を見ます。

 

東洋的価値観:絶対的・対立しない・共生・瞑想的・直感的

人の徳性というものの価値をみる 他者と競わない 競争しない

心身一如:心と体は一体であり分けられるものではない

自他一如:自分も他人もひとつである

自然と人間:人間は自然の中の一部である

健康と病気:対立するものではない

善と悪:悪人正機説(親鸞)

丹田中心の世界・身体・肚・身体を通す修行

魂の座は肚にあり:頭や脳ではない

命あるのもすべてが仏である(山川草木悉皆成仏)

八百万神・至るところに神が宿る・己の中に神を見出す