小林ハルさんは、盲目ながら数々の試練を乗り越え、人間国宝である無形文化財の保持者として晩年、黄綬褒章を受けた女性です。
その105年の生涯は、平和を享受できる現代では想像もつかぬ生活の中、歯を喰いしばり生き抜いて来られた方です。
江戸時代から昭和の初期頃まで北陸の日本では、盲目の子供が生まれると、家族が村から差別を受けることを恐れて、間引きしたり、芸の世界に売り飛ばすなど、人身売買の習慣があったそうです。
ハルさんは比較的裕福な家庭に生まれたため、命を絶たれたり、身売りされるようなことは無かったものの、生きてゆくために五歳で三味線の師匠に弟子入りします。
芸を身に着ける過程において、殴る蹴るの教育は日常的に繰り返され、一日の食事も充分に与えられぬ環境の中、必死に生き延びてきました。
書籍を読むと、想像を越える暴力や金銭の搾取、差別と厳しい偏見に晒されながら、ひたすら沈黙を守り、生きてこられた姿が浮かんできます。この生き方には、自然と頭が下がる思いを抱きます。
映画「ダンサー・インザ・ダーク」の主人公ビヨークの人生を思い出しましたが、ハルさんが経験された試練の数々は、真実の恐ろしさを感じ、人間の行動の裏にある、心の闇や歪み、残酷さをも感じ取れます。
もしも私がハルさんの立場であったらと考えると、様々な試練には耐え切れず、生きること自体を諦めてしまうのではと思う次第です。
現代人が日常生活で抱く、職場や組織内での愚痴や妬み、身近な周辺で起こる人間関係の摩擦やいざこざなど、衣食住の恵まれた環境の中で生活しているにも関わらず、人間の不寛容なこころの使い方や姿勢に対し、不平不満をこぼしていることさえ、小さく見えてしまいます。
You Tubeでハルさんの三味線と唄声を聞きながら、顔に深く刻まれた皺の人生と、その芸の深さを身体で感じ取ろうと試みております。