猫の妙術

『田舎荘子』の中に「猫の妙術」という、剣の極意を説いた書物があります。

「山岡鉄舟」も大切にしていたと云われる秘伝書ですが、現代に至っても、なお輝き続けている書物です。

 

ある日、勝軒という剣の名手の家に、大ネズミが住み着いてしまいます。

このネズミとの一騎討ちに、疲れ果ててしまった彼は手に負えず、ご近所の家から猫を借りると、いとも簡単にあっさりと、ネズミを捕まえてしまいます。

 

物語では、名人と呼ばれる古猫・若き鋭い黒猫・たくましい虎毛の大猫・少し年取った灰毛の猫が登場し、4匹の猫がネズミをどのようにして退治するかを、それぞれの「技」を話し合っていくところから始まります。

 

物語の終盤では、

「昔、隣村に一匹の猫がいて、朝から晩まで何もせずに居眠りをし、さっぱり覇気がなく、まるで木彫りの猫のようだった。だれもこの猫がネズミを取ったところを見た事がない。けれども不思議な事に、かれの居るところには一匹のネズミもいなくなる。ネズミの密集している所に連れて行っても、たちまちネズミ達の影も形もなくなってしまう……かれに理由を聞いてみたが笑うだけで答えなかった」

 

かれこそ「ほんとうの己を忘れ、物を忘れ、物なきに帰した神武不殺の境涯だ。われわれなど、とても及ぶところではない」

 

『敵なく、我なし……』という究極的な境地を表現しています。

 

この猫たちに教わること多し……です。